あの世界の片隅で

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ドラマ「母さん、俺は大丈夫」感想

 遅くなりましたが8月22日に放送された日本テレビ24時間テレビドラマスペシャル「母さん、俺は大丈夫」の感想を。

 

   ドラマ全体の感想としては、主人公佐々木諒平役の山田涼介くんの演技がとにかく素晴らしかったと思います。私自身が兄妹の真ん中の子で、親に素直に甘えられなかったりする真ん中の子の心情が少し理解できることも手伝って、難しい役どころを違和感なく演じる山田くんの演技に引き込まれながら観ました。山田くんの演技、他のドラマで何度か観たことはありますが、今回本当に素敵な役者さんだなと感心しました。

 

 実を言うと24時間テレビのドラマをこんなに一生懸命観たのは初めてかもしれません。もしかしたら子供の頃に少し観たことがあるかもしれませんが、少なくとも自分が母親になってからは初めてでした。今回のドラマはタイトルにもある通り、家族の中でも特に母親と息子との関係に焦点が当てられていたこともあり、どうしても自分と自分の子どもたちと重ねながら観てしまい、余計に辛いものがありました。

 快復の光が見えた直後の辛い宣告後、お母さんが諒平と電話で話すシーン。生まれた時のことを語り「元気に産んであげられなくてごめんね」と泣くお母さんの想いは自分が母親でなくてもおそらく泣いてしまうシーンでした。ただ、私の場合はこんな命にかかわる状況ではなかったものの、自分の子どもに対して「○○に産んであげられなくてごめんね」と思ったことはこれまでに何度かあります。だからそれが子供の命にかかわることだったらと考えるだけで、その辛さ、申し訳なさ、やるせなさ、切なさ等々色々な感情が押し寄せてくることは容易に想像できます。そして、実際にはそんな想像をはるかに超えるものであろうことも。それだけに胸が痛くて涙の止まらないシーンでした。

 このシーンだけでなく、ドラマが始まってすぐからすでに辛く、途中さまざまなシーンで涙を流しながら観ていましたが、諒平が亡くなった後の回想シーンが一番辛く涙があふれました。最初の頃に出てきた幼い日の回想シーンでは、お兄ちゃんはお母さんに甘えて抱きついているのに諒平は少し距離を置いて見ている。お母さんが「諒平もおいで」と声をかけても「ぼくはだいじょうぶだから」と言って来ない。弟の看病で疲れているだろうお母さんを思いやる諒平の優しさからくる強さと、それに対する母親のさまざまな想いを表すシーンでしたが、最後の回想シーンではその続きがありました。「ぼくは大丈夫だから」と寄って来ない諒平に、お母さんがもう一度「いいからおいで」と微笑みかける。そうするとようやくお母さんの元に来て、抱き付きながら「おかあさん…だいすき」って言うんですよね。このシーンは本当に辛かった。そしてそれは私に子どもがいなかったら感じない辛さだったと思います。子どもたちが幼かった頃の、嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくるときの表情、ぎゅっと抱きしめた時の子どもたちの体温や体の薄さ、華奢な骨格の心もとなさ、ふんわりと香る子どもの甘い匂い、小さい手でしがみついてくる時の思いがけない強さ、そういった当時の実感が一気に押し寄せてきて、その子をもう二度と抱きしめられないという現実の辛さや痛さに号泣してしまいました。

 

 今回、増田さんは主人公諒平の兄、哲平役でした。観る前に何となくのあらすじと、哲平は「甘えん坊で泣き虫」というキャラクターであることは知っていました。今回のドラマ出演は思いがけず、心から嬉しかったのですが、こういったキャラクターは「アイドルまっすー」にぴったりではあるものの今までに色々なドラマで観てきたのと同じような感じの演技になるのかなという思いも正直、少しありました。でも事前に流れてきた「哲平」のビジュアルがあまりに爽やかで優しそうな、それでいてちゃんと「お兄ちゃん」に見える素敵な大人の男性だったので(舞台「フレンド」の喜さんを思い出した方も多かったかも)俄然期待値が上がって楽しみにしていました。

 私が増田さんの演技を初めて見たのは舞台「ストレンジ・フルーツ」でした。上演後もう2年以上たつのに、いまだにとらわれている人たちが多いのもうなずける、さまざまな点で強烈な舞台でした。幸か不幸かその時の増田さんの演技が彼の演技のひな型として私の中に刷り込まれてしまったため、その後観たいくつかのテレビドラマでの彼の演技は可愛かったり癒されたりはしたけれど、何となく物足りなさを感じてしまったもの事実です。それぐらい、鮮烈で激しくて切ない、秀逸な演技でした。昨年の舞台「フレンド」での演技はそれとは全く違うけれど、「普通の人」の温かさと哀しさを内包した強さのあふれる素敵な演技でした。そういった舞台での経験が今回の「哲平」の演技に活かされていると感じたのは、増田さんが見せた哲平の複雑な心情を表す豊かな表情です。

 兄としてふたりの弟を守ってやりたいという思い、弟よりも自分の方が弱いという現実を直視し受け入れ変わろうとする意志、自分ができることを見極め末弟をかいがいしく世話する優しさ、父親との掛け合いで見せる息子としての茶目っ気等々、色々なシーンで見せた表情が「哲平」というひとりの人間を作り上げていて、素敵でした。時々いつもの演技の癖が出ちゃってるかなと思う部分もありましたが、まあそこはファンの欲目フィルターで…(笑)(たぶんこの辺りの演技を批判する人はしていたんじゃないかなと思います)。

 私が一番目を奪われたのは、諒平のために同級生たちが病室で卒業式を開いてくれるシーン。「想い出がいっぱい」を歌ってくれる同級生たちやそれを嬉しそうに聴いている弟に向ける優しいまなざし、自分も笑顔で聴いているけれどどうしても堪えきれずこぼれそうになる涙を我慢して見せる微笑み、そうしながらも手はずっと末の弟の腕に添え、とんとんと優しく叩いていて、その佇まいすべてが「哲平お兄ちゃん」でした。増田さんの素も少し出てしまっていたのかもしれないけれど、あの演技が見られただけで嬉しかったです。

 増田さんの舞台は2本しか観たことがないけれど、彼の演技はテレビより舞台向きじゃないかなと思っていたので(それぐらい舞台での演技はテレビで見せるものとは全く違ったんですよね)次の舞台も楽しみにしていたのですが、やっぱりドラマにも出てほしい。ドラマなら舞台と違ってたくさんの人が観られるし、記録にも残る。そして次はもし可能ならば今回のような明るくて優しい一面と残酷で狂気的な一面を併せ持つ、二面性のある役を観てみたいです。笑顔の有無、髪型や服装の違いで雰囲気から見た目の年齢までがらりと変わってしまう増田さんだからこそ、天使と悪魔の顔を同時に見てみたい。その奥に潜む哀傷まで見せてくれたらさぞかし魅力的で、たくさんの人を虜にしてしまうと思うので、そんな役が来る日を秘かに楽しみに待っています。

 

 最後に余談ですが、諒平の同級生役で出ていた間宮祥太朗さん。最初に知ったのはドラマ「弱くても勝てます」でしたが、その後「水球ヤンキース」や増田さんの出ていた「金田一少年の事件簿」等で観るたびまったく違った表情を見せていて、しかもそのどれもが上手くて、注目している役者さんです。失礼ながら詳しくは存じ上げないのだけど、きっとこれからもっと注目されるんじゃないかなあ(なんて、すでにそうだったらすみません)。